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PROFILE

鳥居 健太郎

20歳でイタリアに渡り、各地のミシュラン星付きレストランで研鑽を積む。伝統的なイタリア料理を学んだ後、フランスやスペインでの修行を経て、シンガポール、ロンドンのレストランではエグゼクティブシェフとしても活躍。合計16年もの豊富な海外経験を持つ。世界70カ国の名だたるイタリア料理シェフたちが加盟する協会で2012 年度のベストシェフに選出。アマン京都の総料理長を経て2022年外資系大手企業のコーポレートシェフに就任。
仕事において特に心がけているのは、「食材を大事にし、素材の良さが一番伝わるよう料理すること。最高の状態でテーブルに届くよう、調理はもちろん、食材を選び仕入れるところから保存の仕方など、あらゆるプロセスで細心の注意を払うこと」

INTERVIEW

各国の厨房を知り、3ヶ国語を操るマルチな料理人

取材・文:みつばち社 小林奈穂子


―鳥居さんは20歳のころから、イタリアを中心に、海外に延べ16年いらしたんですね。当初から海外志向が?


鳥居:そうですね。この道に入るにあたり、料理が自分のやりたいことを実現する手段になると考えたんです。ひとつは人に喜んでもらう手段として、もうひとつは、行きたかった海外に行く手段としてでした。


―どちらも実現されていますね。


鳥居:そうですね。幸運でした。


―さまざまな国の厨房に立たれる中ではご苦労もあったのでは?


鳥居:そう思われがちですが、特段つらいこともなく楽しめたんですよ。人に恵まれて、すごく運が良かったのだと思います。


―そうでしたか。ではそれぞれの地でのご経験を満喫しながら、料理人としても着々と力をつけられたのですね。


鳥居:そうだと思います。イタリアンだとイタリアで、フレンチだとフランスで経験を積む日本の料理人は珍しくありませんが、僕のようにヨーロッパ各地のほか、アジアでも仕事をしてきた人間はそう多くはないんですね。それぞれの持つ食の文化や人々の嗜好などを、経済の動きなんかも感じ取りながら現地で学べた経験は財産ですね。


―そうしたバックグラウンドを持つ鳥居さんが、日本の食について感じていることを教えてください。


鳥居:特にイタリアは、地域ごと、季節ごとに楽しめる食材が色濃くて、それがとても魅力的に感じられました。日本にももちろん重なる部分がありますが、ポテンシャルはもっとあるはずなので、料理人として貢献できればなと考えています。


―私もイタリアにはずいぶん行きましたが、本当にそう思います。東京にいるとお金さえ出せば貴重なものもいつでも食べられる感じがしますけど、ここでだけ、いまだけ楽しめる料理は、旅や旬の楽しみを大きくしますよね。


鳥居:まさにその通りだと思います。料理する側の人間としても、個性ある旬の食材を扱うのが一番楽しいですね。それだけに、土地ごとの魅力を料理でバックアップして、訪れる人を増やすお手伝いができるとうれしいです。


生産者さんの情熱に触れると、一層気合いが入る

―日本の、食材の特長についてはいかがですか。


鳥居:野菜からお伝えしますと、味の濃さでこそヨーロッパには敵いませんが、種類が多くて季節を表現しやすい特長があります。山菜などよその文化圏ではなかなかお目にかかれないものもありますしね。肉と魚だと、肉の文化が成熟しているヨーロッパに対して、日本はやはり魚ですね。特に生食文化はつくづく素晴らしいと思っています。刺身は僕も大好きです。


―特に印象的な食材を具体的に挙げるとすると?


鳥居:京都の冬の、大根や蕪などの根菜類でしょうか。フライパンで軽く焼くだけで本当においしい。京都の料理人の間では知る人ぞ知る“寒くなったその日の野菜”というのがあるんですよ。


―寒くなったその日の?


鳥居:特に上賀茂だとか、寒暖差が大きなところでは顕著なのですが、初雪の日とか、急に冷え込んだ日、野菜がまるで事前にそれを知って寒さに備えるかのように、ぐっと味がのる日があるんです。このことを最初に教えてくれたのは生産者さんでした。野菜が自ら「凍らないよう準備するんだ」って。おもしろいですよね。


―それはおもしろいですね。まさに特定の、その日、なんですよね?


鳥居:そうなんですよ。シンプルに調理するほど味わいの違いがわかりました。


―それは試してみたくなります。生産者さんとのコミュニケーションは、やはり大事なのですね。


鳥居:食材を活かし切るには、その食材を理解する必要があります。作っている方のお話をお聞きすることは本当に大事ですし、楽しくもあります。


―熱心な生産者さんだと、鳥居さんのやる気も、さらに増しますよね。


鳥居:増しますね。生産者さんの情熱に触れると、料理するときにその方のお顔が浮かんで、食材を決して無駄にしないよう、最高においしくできるよう、一層の気合いが入ります。


―いまさらながら、あえてお聞きしますが、鳥居さんは根っから料理をすることがお好きですか。


鳥居:はい、そう思います(笑)。だんだんポジション的に、メニューの開発だとか、あと、数字の管理だとか、デスクワークも多くなってきまして、実は僕はそういう仕事も好きなんですね。ただ、デスクワークの仕事に占める割合が半分くらいになると、プライベートで家族や友人と楽しむための料理をしたくなります。仕事以外でまで料理をするのは嫌だというのはぜんぜんなくて、また別の喜びがあるんです。趣味を仕事にできているんだと実感しますね。


料理を通じて日本の良さを伝えたい

―現在は和食も手掛けられているそうですが、これからやってみたいことをお聞かせください。


鳥居:海外が長かったので、いまは日本のために働けることにやりがいを感じています。料理や食材を通じて日本の良さを伝えたいという思いが強くて、まだ海外には知られていない地方のそうしたものを紹介する仕事には、積極的に携わりたいと考えています。実際に、食材や加工品の販促のお手伝いで海外に赴いたこともあって、手応えを感じることができました。ほかに、レストランや飲食店のコンサル、それにキッチン設備のコンサルにも興味がありますし、仕事の幅は広げていきたいですね。


―海外に向けて伝える、とのことで言えば、鳥居さんは3カ国語をお話しになるのですね。


鳥居:はい。英語とイタリア語ができるので、海外の同業者や生産者さんと直接話せるのは強みだと思っています。


―強み満載で無敵感さえ漂う鳥居さんですが(笑)、KIBOのチームにも、お仕事の幅を広げる一環で参加されたということですかね。


鳥居:そうです。代表の品川さんは、僕にはない個性、コネクションを持っています。発想が柔軟で、僕ら料理人とは異なる視点も持っている。それに、人を惹きつける魅力がありました。楽しくコラボできそうだなと。


―KIBOのお仕事では、岩手県矢巾(やはば)町と共同のPRプロジェクトにおいて、鳥居さんが地元食材を用いたメニューを監修されたんですね。


鳥居:「ストーリー性のあるメニューを」とのお題を、品川さんにもらって考案しました。食べていて素材がわかるような仕立てを工夫したのと、町内で継続的にそのメニューを提供する前提でしたので、季節ごとに応用が利きやすく配慮して。料理の評判は上々のようでしたし、事前に現地で生産者さんを巡りながら食材となるものを味見させてもらう行程も踏めたので、楽しいお仕事でした。


―では今後も、機会があれば同様のプロジェクトに?


鳥居:はい、これからも、食の魅力で、その地域を訪れる人、関係人口を増やすことで、地方や、ひいては国が元気になることに貢献できたらなと思っています。


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