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PROFILE

秋山 直宏

19歳でエコールキュリネール国立を卒業し、都内のフレンチレストランを中心に複数の店舗で経験を積む。2012年に食で展開するブランド企業に入社し、現在は同ブランドの総料理長としてメニュー開発を統括。ジャンルの垣根を越え、提供される側に驚きと発見を与える懐の深い料理は、「ボーダレスでクリエイティブ」と称され、KIBO主催の1dayレストランにおいてもファンを魅了している。
仕事において特に心がけているのは、「お客さまはもちろん、一緒に働く人たちもハッピーな状態であれるよう心を砕くこと。料理に関しては、『わーっ』と笑顔で言ってもらえるよう、意識している」

INTERVIEW

思いある生産者さんの、思いをのせた料理を届ける

取材・文:みつばち社 小林奈穂子


―お母さまが学食だとかお弁当屋さんで働いていて、家でも料理を楽しそうに作って振る舞うのを見てお育ちになったのだとか。


秋山:そうなんです。自分も比較的早くから自然と、料理して人に食べてもらうようになりました。だからでしょうかね、この道を選ぶ際に特別な気負いはなかったですね。家族や友人たちからもすんなりと受け止められました。


―以来30年あまり。


秋山:はい。調理師を目指すにあたっての、和食かフレンチかの選択肢を前に、フレンチを選びました。僕は元々なにかを突き詰めることが合っているタイプなんですよ。でも、やるからにはフランスに行って修行するだとか、ミシュランの星付きの店を経験するだとか、いわゆる定石には、あまり興味がなかったんですよね。フレンチの料理人に多い、「フランス料理が一番」というのも、僕にはありませんでした。ただ、おいしいものを振る舞いたいという思いは一貫して変わらなかったのと、僕は最初からずっと、こだわりの生産者さんに興味がありました。いまでこそ珍しくなくなりましたが、当時はあまり、生産者さんには目が向けられなかったんですね。


―お若いころから自分を持っていらした。


秋山:いえいえ、駆け出しのころはとにかく技術を身につけようと必死で。なんとか自分や周りが見えるようになったのは、5年くらい経ったころでしょうかね。10年もすると一通りの技術が身について、言われてするのではなく、自ら生み出さなくてはならなくなります。元来、「そういうものだ」とただ受け入れることはなくて、あれこれ疑問を持っては、考えて納得できることを大事にする性分ではありましたけど、経験を積むにつれ、ありたい姿みたいなものがだんだんはっきりしてきた感じでしょうか。


―ありたい姿。


秋山:僕は結局、「生産者さんとのつながりからおいしいものをお客さまにお届けしたい」というのが一番にくるんですよね。それが実現できるよう、スタッフも生き生き働けるのがいい、とか。


―秋山さんの料理は創造性に富んでいて、毎回驚きと発見があると評判です。


秋山:出したとき、口にされたとき、「わーっ!」って言われたい気持ちはありますね。でも、手間はかけすぎないよう心がけています。食材を活かすのが大切。そのためにも、生産者さんとお話しすることが大事なんですよ。その食材に毎日触れていて、一番わかっている人ですからね。ヒントをもらうことが多いです。


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出会いは、思いを共にする人たちのつながりから

―秋山さんのようなベテランで、皆さんがクリエイティブと口をそろえる方でも、生産者さんから調理のヒントを。


秋山:そうそう。料理人には意外と、知らず知らずとらわれているセオリーのようなものがあったりするんですよ。


―なるほど、そうなんですね。出会われたたくさんの生産者さんの中から、特に記憶に残る方のことを教えてください。


秋山:しばらく前ですが、すごいマスの生産者さんにお会いしました。いま、マスは全国いろんな地域で養殖していますよね。通常は池みたいな環境を作って育てるのですが、その方は川の水を引いて10年くらいかけて自然に近い状態に整えて、抗生物質なども使わずに育てていました。そのやり方だと、365日絶えず手間がかかるのだそうです。いただいてみたら、香りが良く驚くほどおいしくて、感心するやら感動するやら。


―うわぁ。それは料理されるほうも力が入りますね。


秋山:そうなんですよ。そのマスに関しては、まず最初の一口は、通常必ずする塩をしないで食べてもらおうと思いました。香りが消されるのが惜しかったんです。


―日本の生産者さんには、とにかく丁寧で手間暇かけて、という方が多いと言われていますね。


秋山:すごく熱心に、研究を重ねて作っている生産者さんが多いですね。派手さはないけど、丁寧に手をかけて作る。野菜もそうですね。よく、日本の野菜はヨーロッパに比べて味の濃さが足りないと言われます。確かに、気候や水の違いで同じようにはならないけど、あたらしいやり方、味を見出して…、なされている工夫には感心させられます。


―そうしたこだわりの生産者さんとはどのように出会うのですか。


秋山:人の縁ですね。ブランド化されてなくて日は当たりづらいけど、安全でおいしいものを作っている方は確かにいるんです。おいしいものだけにフォーカスするなら、いまの時代、ある程度簡単に手に入れられます。でも僕はそれ以上に、どんな作り手さんがどんな思いでどんなふうに作ったかを知りたいし、そこから生まれるおいしさにこだわりたいんです。だから出会いのほとんどが、思いを共にする人たちのつながりからですね。


手に入りやすい食材を、「わーっ」と笑顔にさせる一皿に

―特に気になっている食材はありますか。


秋山:各地で魚が取れなくなっている中で、全国どこでもある程度手に入りやすい、スズキやカレイですかね。魚食が減って漁師さんも大変だと思いますし、天然の魚の醍醐味を知る機会が減るのは僕らも残念です。いい魚は生で食べがちですけど、生だとたくさんは食べられないですから、良さを引き出して存分に味わってもらえるよう料理したいです。あと、ジビエも好きですね。個体差があって扱いづらい食材ではあるんですが、おもしろい。最近は、ずいぶん質が上がってきて、猟師さんの工夫がうかがい知れます。農作物の食害で駆除対象のシカやイノシシであっても、仕留めた後どう処理したらよりおいしくなるか極めようとしている猟師さんがいて、処理がいいとぜんぜん違うんですよ。料理人は当然、そういう猟師さんの仕留めた素材を求めますし、これからは、何月ごろに獲れる何歳くらいのイノシシの肉がおいしい、といったふうに、食材としてさらに洗練されていくのではないですかね。


―比較的手に入りやすい食材を、秋山さんお得意の「驚きと発見のある料理」に仕上げてもらうのは楽しみですね。


秋山:あんまりハードル上げないでください(笑)。


―あはは。注目している地域はありますか。


秋山:四国かな。海のものにも山のものにも恵まれて、いいものがたくさんあると思うんです。でも、そこまで注目を浴びていない。旬は南から北上してくるので、九州から上がってきたあたりのときの素材に興味があります。


―地方との関わりでは、KIBOとの連携における秋山さんの活躍も期待されています。


秋山:僕が20代のころは、いいお店といえば東京をはじめとする大都市にのみ集中してました。近年、そんな都市部の食通が食べに行くくらいのお店が地方に増えましたよね。地方は生産者さんのフィールドで、食材にも力がある。僕ももっと地方と接点を持ちたいと思いながらアクションを起こす機会がなかったので、KIBOさんとの仕事でそれが実現できればうれしいですね。


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