KIBOは、コロナ禍、苦境にあった飲食業界を少しでも明るくしたいと始めた活動がきっかけで、仲間と立ち上げた会社です。
子どものころから食や料理に興味がありました。美大出身の母が作る料理は、良く言えばクリエイティブなのでしょうか、世にいう定番のおかずにも、常に自由で、ともすれば不思議なアレンジがなされていました。研究者である父の料理はその逆で、基本に忠実であり、緻密さが特徴。小学生で焼き菓子作りに凝った私は、両方の影響を受けながら、興味を深めていきました。
高校の学祭で、クラスのみんなとじゃがバターを売ったことがあります。プレーンなバターのほか、ピリ辛とか、たらこ入りとか、いろんな味を用意した上で、事前にクラス内でおこなった人気投票をもとにランキングを示し、「私たちの人気No.1、No.2はこれでした!あなたはどれが好き?」と売り出したら飛ぶように売れて、午前中で完売しました。勉強は得意でしたし、父と同じ医学の道を進むのかな、というところになんとなく立っていた私に、そのとき先生が、「お前は医者より企業で企画をやるのが向いているのでは?」と言ってくれました。確かにそうだと思いました。いつか食に関わる企画を手掛けるような仕事をしたいと、思い始めたのはそのころです。
大学を卒業後、IT関連の大手企業に入社してマーケティング、営業、事業開発などさまざまな仕事を経験しながら、仕事でも趣味でも、食との接点を持ち続けました。その間、長年抱いてきた調理師学校への思いも、消えることはありませんでした。2019年には、遂に通うべく、時間に融通が利き、かつ一定以上の収入を維持できる外資系企業への転職を決めます。私の場合は、料理人になってその道を極めたかったわけではなく、飲食業界で何をするにしても、自ら一度、調理の現場や技術を学んで身につけるのが大事だと考えてのことでした。KIBOの、ほかの二人の役員は、そのとき通った服部栄養専門学校夜間調理師課の仲間です。折しもコロナ禍、先行きが見通せなくなっていた飲食業界を盛り上げるために、「自分たちもなにかしたいね」と三人で始めたポップアップレストランがうまくいき、“おいしいでつながる”ことができる飲食業の喜びを味わうことができました。
私自身は、「これが好き!」「これがやりたい!」と、自ら言い出すより、誰かのそれが実現できるよう、取りまとめて動かす役回りです。クライアントの要望には当然沿うようプランニングしますが、とりわけ食の分野では、楽しさも企画における重要な要素であり、遊び心をアクセントにするのは私の得意とするところです。
KIBOでは、福井のアンテナショップのレシピ開発、運営を皮切りに、今後も、地域の食の魅力を伝えるためにお役に立ちたいと思っています。都内だけでもたくさんのアンテナショップがありますので、それらの飲食スペースが、おいしさで選ばれ、若い層を含めた多様な人たちに、さらに訪れてもらえる場になるよう思い描いています。地域の資源を無駄なくより良く使って、その土地ならではの食材の魅力、食の文化を、おいしさと共に伝える先に、この国の豊かさを見ています。日本には、いわゆる有名シェフに限らず、素晴らしい料理人がたくさんいます。そうした方々と地方の仕事をご一緒しながら、長い目で地方にメリットを落とし続けることのできる、持続可能な仕組みを生み出そうと、目下KIBOは取り組んでいます。そしていつか、すべての都道府県のおいしさを集結させた、ちょっとハイクラスなフードコートをつくってみたいとも話しています。
組織としては、携わるメンバー一人ひとりの強みを活かせるよう仕事を組み立てていて、それがKIBOの強みだと自負しています。誰しも自分の持ち場で主体的にやりたいことをやれるときに一番力を発揮でき、周りにもいい影響を及ぼせるはず。私は20代で管理職に就きましたが、社会経験を通じてずっとそう感じてきました。いい働きをして、たくさんの人に喜んでもらうには、自分たちにとって喜びのある仕事をするのが、結局最も無理がなく、効率的です。だから、型通りの働きやすさやあるべき職場にこだわるより、個々の裁量に任せてフラットな風土を維持し、メンバーを信頼して各自が自由にやれる環境をつくること、そして成果が現れるのを待つことが、私の立場では大切だと考えています。私は決して大きなリスクを取るタイプではなく、数字は慎重に、自ら細かく追い、博打のようなことはしません。一方で、「まずはやってみる」ことの意味や価値も知っているつもりです。常に最短距離で掴むばかりが成果ではありません。うまくいかない理由から学んでさらに良いビジネスを考えれば、一層大きな成果を得る可能性があります。
お陰さまでKIBOは、順調なスタートを切り、着実に歩みを進めることができています。大きな目標には、日本の食料自給率を上げることを掲げていますので、これから十分に成長し、力をつけていきたいです。食への “希望”を共有するさまざまな人たちと協力し合って、食を通じて豊かさを考え、その豊かさの実現に力を尽くしていきます。